[7] コンサートの後で 2 

■ ロスト・イン・トランスレーション

 ただ一球用意してきたボールも使い果たし、ブリュノとの会話はこれで終了・・・と思っていました。すると、ブリュノはまたボールを投げてきました。

 「『ロスト・イン・トランスレーション』っていう映画があるんだけど、東京が舞台でね・・・」
 え?!それって、もしかして私が行きの機内で見たやつ?!!!!
 私がブリュノに見て欲しいと思っていた映画を、ブリュノのほうから話題に出してくれるなんて!「ラスト・サムライ」のようなサムライ映画じゃなく、今の日本を映した映画、私が見て欲しいと思ったもの。何が嬉しいかって、ブリュノがその映画を知っておそらく(少しは)私を思い浮かべ、そして私にその話を実際にしてくれたこと。

 この映画、帰国後調べたら日本ではまだ公開されておらず、だから私はこの旅行前まで映画の存在自体知りませんでした。もし私が機内でこの映画を見ていなかったら、ブリュノがその話をしてくれてもよくわからないまま「へえー、そんなのがあるんだー」で終わっていたかもしれません。ああよかった、行きの機内で眠れなくて(笑)。
 ちなみにこの映画、フランシス・コッポラのお嬢さんSophia Coppola監督、アカデミー脚本賞などを受賞した作品。しかし、聞くところによると、映画の中で日本人俳優が話す日本語には海外公開でも字幕がつかず、外国人に理解できるのか?ということがあるらしいのですが・・・どうなんだろう・・・。そして、なんで舞台となってる日本で公開が遅いんだろう・・・?


■ ラスト・ボール

 いよいよ、セティルでの最後の夜。ブリュノは疲れていたはずだけど、ファンのところに来てくれました。でも、長旅の最後が終わった安堵感からか、ずいぶんリラックスしてるように見えました。

 私はいつも最後(そのほうが精神的にリラックスできます)、他の人に比べれば時間的にも内容的にも本当に短く終わります。だって、会話能力がないんだから仕方がない・・・(泣)。
 それでもとにかく言いたかったありがとうの言葉を短く伝えました。たどたどしい私の言葉を、ブリュノは優しく聞いてくれました。言うべきことはなんとか言えた、短いけれど私には充分、安堵感と満足感。そして、ブリュノは挨拶をしてそのまま去って行くだろうと思っていました。すると、一瞬の間をおいて、再びボールを投げてきたブリュノ・ペルティエ。

 「君は話す時にいつもそうやって手を組んでるけど、何か意味があるの?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 私はその時、クリスチャンが祈りをささげる時のようなポーズで胸のところで手を組んでいました。そういえば、いつも私、ブリュノと話す時ってこんなポーズしてたっけ・・・。ブリュノは「いただきます」のような、日本人の独特な仕草と思ってるんだろうなー、違うんだけど・・・でも、なんで私こんな風なことしてるんだう?えーっとどうやって説明しよう?・・・ああ、わからない!!
 いろんな考えがぐるぐる駆け巡った後、頭の中は真っ白になって、何も言えぬまま私は沈没してしまいました・・・。

 落ち着いて考えれば、答えは簡単。「何の意味もありません」。
 だってブリュノ、あなたに言われるまで私は自分がこんなポーズとってるなんて、わかってなかったんだから・・・!そう、無意識ってやつ。日本人だからってことでもなく、私の癖でもなくて・・・あえて言うなら、「がんばれ、自分!」と己に叱咤激励するため、とでもいいましょうか。

 ブリュノがボールを投げてくれたのはいいけれど、その球はものすごい角度のフォークボール、キャッチャーの私は球を後逸し、そのボールを追いかけている間にランナーが返って逆転サヨナラ負けを喫してしまい、がっくり膝をついてうなだれている状態・・・。

 ブリュノ、どんな球でも投げてくれれば嬉しい。でも私はまだストレートの球しか受けられません。次はもっとゆる〜〜い球でお願いします。




終わり

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「彼方へ」 7

Bruno Pelletier Japan