[6] コンサートの後で 1 

■ 言葉のキャッチボール

 さてここで、少し話しを戻しましょう。最初のテルボンのコンサートが終わった後、ブリュノはみんなと会ってくれるらしい。
 しばし待った後、友達に続いて2階のホールに入ると、奥にはテーブルが置かれ、椅子に座ってスタンバっているブリュノ・ペルティエ。おお!何度も写真で見たシチュエーション!
 さて、普通ならば「ブリュノに会ったら何を話そうか」などと考えていくものでしょうが、私、まーったく何も考えていませんでした。そして、そのことに気が付いたのが奥に座ってるブリュノを見た瞬間。「し、しまった・・・」と思っても、時すでに遅し。・・・待ってる間になぜ気がつかないんだ、私!

 ブリュノと会話しようと思ったら、基本的にまずはファンが話しかけます。ボールを投げるのはファンのほう。そしてブリュノと言葉のキャッチボールをするわけです。普通に会話ができる人ならば何の問題もないでしょうが、私のレベルではなかなか簡単にはいきません。なのに私が準備していたのは、サインしてもらおう〜と思って持っていた電子辞書、ただ一球。投げればおそらくそれっきり。

 いいかげん自分にあきれかえり、「ふっ、人生こんなもんさ」と少々なげやりになりつつ、まあいいか、ここに来てるっていうことはコンサートが気に入ってるからだということはブリュノもわかってくれるだろう・・・とかなり後ろ向きな考えで中に入りました。

 まわりでは、ブリュノの前にすでに並んでいる人もいれば、その辺で友達同士しゃべって待っている人もいて、のどかな雰囲気。私は落ち込んだ気分を引きずりながら、すみのほうでコートを脱いで、ソファに荷物を置いていました。
 すると、ブリュノが私に気づいて、離れたところにいる私に声をかけてくれました。「やあ、来たんだね!」

 おお!覚えていてくれたんだね、ブリュノ!嬉しいよ!
 そしてブリュノは続けて、「髪切ったんだね?」と言ってきました。
 え・・・?髪・・・?
 そう言われて瞬間的に思ったのは、「去年(前にあった時)どんな髪の長さだったっけ・・・?????」
 私はずっとショートヘアーで、自分の髪がどれくらいの長さかとかを意識したことはあまりないのです。ただ、旅行直前に美容院に行った時に思った以上にカットされてました。
 一瞬の間にこれだけのことが頭をよぎったけれど、答えたのは「ええ、そう」だけ。ブリュノが投げてくれたゆる〜い球を受け止めるのがせいいっぱい、返球は無理でした・・・。

 


■ 頭の中にはいつも「????]

 ところで、コンサート前・後に友達としゃべりましたが・・・さーて、言葉がさっぱりわからない(泣)。10%くらいはわかるかな〜と思っていたのですが、限りなく0%に近いぞー・・・。自分でもよくこんなんで一人でガイコクに来るよなーと感心するくらい。周りが親切にこちらに質問を振ってくれても、相手が何と言ってるか数秒考えて結局「???」となり、必ず「すんません、今なんて?」と聞き返してました。弾丸のごとくしゃべるみんなの会話を聞きながら、「うーん、1歳児が聞いてる大人の会話ってこんなんだろうか・・・(つまりなんだかさっぱりわからない会話が流れていく・・・)」と思っていましたが、失礼失礼、1歳児のほうが絶対もっと理解してます。

 さて、みんな順番にブリュノと話すのを待ち、いよいよ最後の私の番。私は電子辞書を差し出し、ここにサインしてくれ〜と指をさす(言葉で言いなさい)。そしてブリュノに聞いてみました(果敢)、「これ、何だかわかる?」

 しかし・・・ブリュノは「???」。・・・私の質問自体がわからないらしい・・・!
 ひえ〜〜こんな簡単な文章も通じないのか〜〜文法どこが間違ってるのかな〜〜(汗だらだら)。もう一度繰り返してもわかってもらえないので(泣)、使いたくはなかったけど英語で言ってみてもやっぱりだめ(号泣)。もう一度フラ語でいったら、想像でわかってくれたのか?「Non」とブリュノは答えました。

 はーよかったー、なんとか質問は通じたらしい・・・と思って、「これは辞書dico なんだよ」と言ったら、再びブリュノ、「????」。ええ?こんな簡単な単語まで通じないのか?私の発音ってそこまで悪いのか〜〜???・・・と思っていたら、ブリュノは「Ah! Dictionnaire! ああ!辞書ね!」と大きくうなずいてくれました。私は「辞書 dictionnaire」の略語「dico」を使ったのですが、どうやらそれが通じなかったらしいのです。授業中に私が「dictionnaire」と言った時に先生が「dico」と言い直したので、私はそのほうが自然なフランス語なのかと思ってたのですが(そして他の先生にもそれで通じてたのですが)、ケベックでは使わないらしい・・・。センセー!私に必要なのはブリュノがわかるフランス語(だけ)ですーー!!

 ごめんね、ブリュノ。こんな0歳児並み会話能力のファンで。エベレストのごとく私の前にたちはだかる言葉の壁。私が投げたひょろひょろ球はブリュノには届かず。ちなみに、電子辞書のスイッチを押して画面を見せると、「おお!」と驚いたブリュノ、その顔を見れただけでよしとしましょう。

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「彼方へ」 6

Bruno Pelletier Japan